リクワイヤメントの方針や項目は毎年のように改定されています。本記事では、令和3年度に改定された最新のリクワイヤメント情報を中心に解説します。リクワイヤメントの基本の考え方から業務フローに沿った対応まで、やさしく解説します。
BIM/CIMリクワイヤメントとは?
リクワイヤメントとは発注者から受注者に対する「要求事項」
リクワイヤメントとは、発注者から受注者への要求事項のことです。
「3次元モデル成果物作成要領(案) 令和3年3月」によると、リクワイヤメントとは、発注者が BIM/CIM の利用を図る業務または工事等において、実施すべきBIM/CIMの活用目的を検討し、その内容を設計図書に指定したもの
と定義されています。
実際にリクワイヤメント対応していくうえで、単に言葉の意味を理解するだけでなく、背景を理解し、発注者の真意を汲み取った対応をすることが肝心です。リクワイヤメントを深く理解したうえで、発注者の意図や目的も考慮しながら、受注者が積極的に提案や検討を行うことが大切だからです。
次の章から、リクワイヤメントが生まれた背景や、具体的な対応について解説していきます。
リクワイヤメントの動向と令和3年度の見直し
リクワイヤメントは、平成29年度のCIM活用業務・工事ではじめて設定され、実施が求められてきました。リクワイヤメントが設定された当初の目的は、BIM/CIMのさらなる活用に向けて、必要となる課題の抽出と解決方策を検討するためでした。
その後、毎年のようにリクワイヤメントの内容は見直されており、受注者は最新の動向を把握したうえでリクワイヤメントに対応していく必要があります。令和3年度の主な変更点は以下の通りです。
リクワイヤメントの目的の見直し
令和3年度のリクワイヤメントの目的は「円滑な事業執行」のみとなりました。前年度までは「円滑な事業執行」と「基準要領等の改定に向けた課題抽出」の2つの目的が設定されていました。
リクワイヤメントの実施目的を明記
発注者によるリクワイヤメント対応も見直されました。令和3年度では、発注者が活用目的を踏まえてBIM/CIM活用項目を選定し、リクワイヤメントとして整理することとなっています。また、実施内容と合わせて実施目的が示されることとなりました。
リクワイヤメントの項目の見直し
リクワイヤメント項目に関しては、主な変更点は2つあります。
一つめの変更点は、業務・工事別での項目設定です。前年度までは業務・工事で同じ項目が設定されていました。令和3年度では、業務と工事でそれぞれ項目が設定されるようになりました。
二つめは、選択・必須項目に関する変更です。これまでは選択項目と必須項目が設定されていましたが、令和3年度ではすべて選択項目となりました。
具体的なリクワイヤメント項目の内容は、次の章で説明しています。
リクワイヤメントの項目と内容
この章では、リクワイヤメントの項目について解説します。令和3年度のBIM/CIM活用業務・工事のリクワイヤメント項目については、国土交通省の「令和5年度のBIM/CIM原則適⽤に向けた進め方」に示されています。
令和3年度では、BIM/CIM活用業務とBIM/CIM活用工事で、それぞれ異なるリクワイヤメント項目が設定されましたので、順に解説していきます。
BIM/CIM活用「業務」のリクワイヤメント6項目
令和3年度のBIM/CIM活用業務におけるリクワイヤメント項目は、6項目のなかから選択することとなっています。
発注者は、それぞれの業務の活用目的を踏まえて、この6項目のなかから実施すべきBIM/CIM活用項目を選定し、リクワイヤメントとして設計図書に記します。
受注者は、このリクワイヤメントに基づいてBIM/CIM活用業務の実施内容などについて発注者と協議を行い、協議結果に基づいてBIM/CIM実施計画書を作成します。また、協議や実施計画書を作成する際は、選定されたリクワイヤメント項目や実施目的などを基に、検討事項を提案します。下図では、リクワイヤメント項目それぞれについての実施目的(例)や適用場面が記されています。
詳細設計業務での注意点
BIM/CIM適用の詳細設計業務では、「3次元モデル成果物作成要領(案)」に沿った3次元モデル成果物を納めることが基本となります。この要領に沿ったうえで、協議で決定したリクワイヤメントに対応する必要があります。
BIM/CIM活用「工事」のリクワイヤメント4項目
令和3年度のBIM/CIM活用工事におけるリクワイヤメントは、4項目のなかから選択することとなっています。
BIM/CIM活用業務と同様に、発注者が4項目から必要とする項目を選定し、リクワイヤメントとして設計図書に記します。
BIM/CIM活用業務と異なる項目は、「BIM/CIMを活用した監督・検査の効率化」と「BIM/CIMを活用した変更協議等の省力化」の2項目です。この2項目の実施例としては、ネットワークカメラを用いた遠隔臨場による現場確認や、Web会議システムを利用した現場確認による業務効率化が挙げられます。
令和3年度のBIM/CIM活用工事では、リクワイヤメントの必須項目はありませんが、令和4年度からは「3次元モデル成果物作成要領(案)」に基づく成果品がある場合、この成果品を利活用した設計図書の照査、施工計画の検討が必須となる予定です。
受注者に求められるリクワイヤメント対応
この章では、BIM/CIM対象業務・工事を受注した場合、どのようなリクワイヤメント対応が求められるか、業務フローに沿って、参考となる要領・基準と合わせて解説していきます。
- 業務または工事の着手時
- 事前協議
業務・工事の着手時におけるリクワイヤメント対応には、事前協議の実施があります。従来までの対応と異なる点は、事前協議において、BIM/CIMの活用目的(発注者が指定するリクワイヤメントおよび受注者が提案する検討事項)や後述する段階確認の実施時期等を決定することです。
- 実施計画書の作成・提出
事前協議の実施後、受注者は事前協議内容を踏まえたBIM/CIM実施計画書を作成し、提出する必要があります。BIM/CIM実施計画書には、リクワイヤメントに基づいたBIM/CIM活用業務の実施内容を含めて記載します。
- 業務中または工事中
- 段階確認
段階確認とは、設計業務の主要な段階毎に実施される、発注者による確認のことをいいます。受注者はBIM/CIMモデルの作成状況やBIM/CIMモデルによる設計照査状況について、発注者に報告し、確認を受けます。
段階確認の目的は、設計成果の品質確保と手戻り防止のためです。段階確認の実施は、事前協議の際に決めた時期に行います。BIM/CIM 実施計画書に記載された確認事項に基づいて、受発注者間で主に以下の内容について確認を行います。
- 3次元モデルの作成目的、仕様等が明確化されているか。
- 関係者協議にて利用できる3次元モデルとなっているか。
- 設計条件を十分に確認して、設計条件に沿った設計成果となっているか。
- 成果品となる3次元モデル成果物が適切なものであるか。
- 属性情報の付与
リクワイヤメント内容によっては、属性情報の付与が必須となっていない部材に対して、属性情報を付与する必要があります。
3次元モデルに付与する属性情報の対応については、「3次元モデル成果物作成要領(案)」に定められています。この要領によると、構造体(階層2)、構成要素(階層3)への属性情報の付与は必須となっていますが、部材(階層4)に関しては任意となっています。 ただし、発注者によるリクワイヤメントに応じて、必要な部材に対しても属性情報を付与する必要があります。
- 納品時
- 電子成果品での納品
納品の際、受注者は「BIM/CIM モデル等電子納品要領(案)及び同解説」に基づいて電子成果品を作成します。このとき事前協議した内容が反映されているか確認します。
リクワイヤメントとして特別に検討したBIM/CIMモデル(設計-施工間の連携を目的とした4次元モデル、過密配筋の照査箇所の3次元モデル等)がある場合、成果品と併せて納品します。
情報共有システムを使った納品には、確定情報フォルダを作成し最終打合せ時の成果品を確定情報フォルダへ移動します。リクワイヤメントに関するBIM/CIMデータはこのフォルダにサブフォルダ(REQUIREMENT)を作成し、格納します。
リクワイヤメント対応のほか、検討事項の提案も重要
BIM/CIM活用業務・工事では、発注者が指定するリクワイヤメントへの対応だけでなく、受注者からの検討事項の提案も重要です。
なぜなら、BIM/CIMの本来の目的は「生産性の向上」だからです。発注者は、生産性向上の妨げとなっている現場の課題についてよく理解している受注者から、BIM/CIM利活用によって生産性向上につながる解決策の提案を期待しています。
「発注者におけるBIM/CIM実施要領(案)」では、受注者が自らの業務の効率化のために実施するBIM/CIM活用項目について、原則として発注者から指定しないようにと記されています。また、事前協議においてBIM/CIMの活用目的を決定する際は、発注者が指定するリクワイヤメントだけでなく、受注者が提案する検討事項を含めて決定することが明記されています。
受注者は、生産性向上に向けたBIM/CIMの利活用方法について、積極的に検討・提案していくことが重要です。
重要度の高まるリクワイヤメント。最新動向を把握した対応が肝心
国土交通省は、令和5年度の小規模を除いたすべての詳細設計、工事のBIM/CIM原則適用に向けて進んでいます。リクワイヤメントは建設土木業界の生産性向上のための重要な取り組みで、重要度は高まる一方です。
受注者は、BIM/CIM利活用の流れを理解し、リクワイヤメントを満たす提案をしていくことが必要です。毎年のように改定される要領・基準を確認するだけでなく、リクワイヤメントの最新動向を把握しながら、どのような課題解決ができるか情報収集や検討を行い、積極的に提案していくことが重要です。
リクワイヤメントに基づく提案や実施でお困りの方に向け、株式会社Malmeでは各種サービスを提供しています。「BIM/CIMトータルサポート」サービスでは、それぞれの業務やリクワイヤメントに応じた最適な提案を行い、成果物の納品までトータルサポートします。建設DXに精通した建設コンサルタント出身の土木技術者が中心となって、みなさまのBIM/CIM活用業務を伴走型でサポートします。
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参考文献
1)国土交通省(2021)「令和5年度のBIM/CIM原則適⽤に向けた進め⽅」、国土交通省BIM/CIMポータルサイト
https://www.mlit.go.jp/tec/content/001389577.pdf
2)国土交通省(2021)「BIM/CIM活用ガイドライン(案)第 1 編 共通編 令和3年3 月」、国土交通省BIM/CIMポータルサイト
https://www.mlit.go.jp/tec/content/001395762.pdf
3)国土交通省(2021)「3次元モデル成果物作成要領(案)令和3年3月」、国土交通省BIM/CIMポータルサイト
https://www.mlit.go.jp/tec/content/001395713.pdf
4)国土交通省(2021)「第5回BIM/CIM推進委員会(令和3年3月)資料2−1 各WGにおける主な取組」
https://www.mlit.go.jp/tec/content/001389574.pdf
5)国土交通省(2021)「発注者におけるBIM/CIM実施要領(案)(令和3年3月)」、国土交通省BIM/CIMポータルサイト
https://www.mlit.go.jp/tec/content/001395761.pdf
6)国土交通省(2019)「第2回BIM/CIM推進委員会(平成31年4月23日)資料4 平成31年度の主な取組について」、国土交通省BIM/CIMポータルサイト
https://www.mlit.go.jp/common/001286930.pdf
7)国土交通省(2018)「第1回BIM/CIM推進委員会(平成30年9月3日)資料3-5 BIM/CIMの課題克服に向けた検討」、国土交通省BIM/CIMポータルサイト
https://www.mlit.go.jp/common/001252267.pdf
8)国土交通省(2017)「第3回 CIM 導入推進委員会資料」、国土交通省BIM/CIMポータルサイト
https://www.mlit.go.jp/tec/it/pdf/shiryou3.pdf
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